昨年度の結果から、鯵ではRNAの分解によるヌクレオチド生成は少ないことが明らかとなった。本年度はプリンヌクレオチドの分解により生じるヌクレオシドや塩基を再度ヌクレオチドに合成するサルベージ経路のうまみ生成への関与を探るため、サルベージ酵素の存在や酵素の性質を中心について調べた。即殺直後の鯵の筋肉では、ヌクレオチドから5'-nucleotidaseの作用により生じるヌクレオシド(イノシン/グアノシン)をヌクレオチド(5'-IMP/5'-GMP)に変換するkinaseやnon-specificなphosphotransferaseの活性は検出されなかった。しかし、ヌクレオシドを塩基のヒポキサンチン(Hx)及びグアニンに分解するphosphorylase活性と塩基をヌクレオチドに再変換するphosphoribosyltransferase(PRT)活性が検出され、ヌクレオチドがヌクレオシドを経て一旦塩基に分解されても、再度、呈味性のヌクレオチドを合成する能力を有することが明らかとなった。イノシンphosphorylase活性は100-150mMのNaCl存在下では非存在下の約1.3倍に、HxPRT活性は同様に50-150mM存在下で1.5から3倍になり、食塩により5'-IMPの再合成系が活性化される可能性が示された。粗酵素液のHxPRTの最適温度は70℃付近にあり、60℃・10分間の熱処理によっても活性の約75%は保持されるという特徴が見られた。これらの結果から、鯵のような魚類を塩蔵品に加工する際にある程度高温で処理しても、5'-IMPを生成するサルベージ経路が働き得る可能性が示された。これらの知見を基にして、今後は魚類の塩蔵加工を中心に、実用的条件においてサルベージ経路の利用によりうまみ物質生成の調節が可能かどうかについて検討する。
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