本研究の全体構想は、二つの目的からなっている。 第一に、世界的に最先端を行く日本(特に、筑波大学附属視覚特別支援学校(以下「附属学校」と略記)の視覚障害生徒に対する理科授業の実際を分析し、視覚情報を遮断された視覚障害者を対象にした固有で優れた教授・学習ストラテジー、教授・学習モデルを抽出・整理・系統化する。 第二に、上記の教授・学習ストラテジーの中から、健常者に対する理科授業に活用可能な教授・学習ストラテジーを抽出し、その有効性について実証的に検討し、この視点から視覚情報偏重と見なされる一般の理科授業の革新の方途を具体的に探る。 本目的に対応して、22年度は、21年度に続いて学習指導要領の改訂によって理科の教育課程が大きく変化したため、その特質を分析して、今後の日本の理科教育の方向と改善のポイントについて解明することに重点を置いた。それは、視覚特別支援学校における理科の教育課程も基本的に学習指導要領の改訂に従うからである。その柱は、言語活動の重視と活用型学習の導入であり、特に前者は、これまで言語的教授を中心とした視覚障害生徒向け授業がその改善のみならず、詳細・緻密な言語的説明教授を中核とした視覚障害生徒のための教授・学習が広く健常生徒の理科授業へ有益な示唆を与える可能性を拡大していることを解明した。そのような実践として、財団法人九州先端科学技術研究所による「「科学ヘジャンプ」視覚障害者全校ネットワークの構築」などの優れた視覚障害生徒に対する科学教授・学習の取り組みについて、その実践を映像分析し、また取り組みなどについて関係者からその実践や成果、課題と展望について直接伺い、貴重な知見を得た。
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