本研究の全体構想は、二つの目的からなっている。 第一に、世界的に最先端を行く日本(特に、筑波大学附属視覚特別支援学校(以下「附属学校」と略記)の視覚障害生徒に対する理科授業の実際を分析し、視覚情報を遮断された視覚障害者を対象にした固有で優れた教授・学習ストラテジー、教授・学習モデルを抽出・整理・系統化する。 第二に、上記の教授・学習ストラテジーの中から、健常者に対する理科授業に活用可能な教授・学習ストラテジーを抽出し、その有効性について実証的に検討し、この視点から視覚情報偏重と見なされる一般の理科授業の革新の方途を具体的に探る。 本目的に対応して、23年度は、学習指導要領の改訂によって理科の教育課程が大きく変化したためその特質:言語活動及び活用型学習の重視を分析した。また、理科授業研究の特質についても歴史的実践的にも分析して、視覚特別支援教育の授業研究のあり方を探る基礎的知見を得た。そのような実践として、財団法人九州先端科学技術研究所による「「科学へジャンプ」視覚障害者全国ネットワークの構築」などの優れた視覚障害生徒に対する科学教授・学習の取り組みについて分析した。特に、筑波大学附属視覚特別支援学校における柴田直人教諭の「電気回路」の授業を参与観察し、我が国の視覚特別支援教育の先進性を確認するとともに、そこで展開される科学概念の説明のし方が通常の理科授業における科学概念説明への貴重な示唆を含むものである、との示唆を得た。
|