視覚障害者の職域の一つとしてプログラマが期待されている。しかし、画面に頼ることのできない重度視覚障害者には二つの開発上の障害がある。開発時点と開発したプログラムの検証という二点である。前者は比較的対策も進んできたが後者についてはこれまで研究例がない。画面読み上げソフトはテキストのみ対応するので視覚障害者はプログラムの動作結果がGUIベースで出力される場合はほとんど検証できない。ソフトウェア開発がV字モデルに従って行われることを考慮すれば検証やテストが実施できない開発では実質的にソースコードの開発すらあり得ないことを意味する。このような壁を打破するため、本研究ではPC上のアプリケーション開発ではたく組込みシステムに焦点を合わせることでこの問題が解決できることを提案した。組込みシステムは機器などに組み込まれるためGUIを持たないものも多い。そのためソフトウェアの動作検証が視覚に頼ちずに済む場合が多い。本年度はモデリング手法を視覚に障害があっても利用できるようにするため、二次元ピンディスプレィを用いたモデリング開発環境を開発した。ターゲットとしてはレゴマインドストームを用いた。これは本研究の中で全盲、弱視の視覚障害者の70%が過去にレゴに触れた経験があることが判明したことによる。またレゴはインターフェースも豊富で音声、触知の情報補償手段の開発がしやすい。今年度の研究では、レゴ標準のグラフィック開発環境の代わりにテキストベースと音声環境で対応できる環境を構築した。また、プログラム動作結果を音声や姿勢等により示す関数を作成した。これにより全盲の学生でも動作を正確に把握できた。また、モデリングベース開発を行うため、データフローダイアグラムを二次元ピンディスプレィにより触知確認する方法を開発した。これらの環境を用いて試験的に授業において利用したところ学生のプログラミングに対する意欲の向上は目覚ましく、またプログラミング自体の学習効果も著しく向上し視覚障害者教育に有効であることがわかった。
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