研究概要 |
学習者とコンテンツ間のコミュニケーションは,学習者が使用する学習方略やATI (Aptitude Treatment Interaction)と言われる学習者の適性によって教授方法,内容,教材などの効果が異なるため,それらをふまえたコンテンツ提示が重要である.また,効率的・持続的学習を支援するためには,個々の学習者の特性や状態を的確に把握し,コンテンツ提示を制御する必要がある.e-learningによる学習中の感情変化をとらえ,学習支援を行う試みは,未だなされていない.そこで本課題では,非言語・パラ言語に代表される「無意識的行動」を感情の推定要素として導入し,学習者の心理過程を直接的に反映した学習時の感情の推定を可能にし,e-learningにおけるコンテンツ提示に応用することを目的とする. 平成21年度は,学習者の学習状態を測定する指標の一つとして,脳波を導入した.学習効果を議論するためには,効果の計量と比較のための客観的で合理的な尺度が必要である.これまでは,主に学習後の試験による正答率で学習効果を評価してきた.しかし,ヒトは脳により制御されるシステムなので,脳の活動に根拠を置くこともできる.そこで,両者の関係を明らかにするために,従来の正答率の変化で学習の効果を定義し,その効果を脳の活動の変化で推定することを目的とし,実験を行った.具体的には,学習の効果と習熟を定義した後,学習の効果を脳の活動で推定するモデルを作成した.次に「3種類の選択肢から正答1つを選択する反復学習課題」のデータから,モデルに含まれるパラメタを決定した.脳の活動状態の計測には,その電気的活動で時間分解能の優れた脳波から,刺激(課題)に対する応答である事象関連電位(ERP)を求めて使用した.最後に,モデルとパラメタの評価を行い,生理指標で学習効果を計量することの有用性を検討した.また,e-learning中の学習者の感情状態把握には学習者の身体動作も一つの指標となるが,それに関連して遠隔非同期環境における学習者の体の動きを測定し,学習状態を教師に通知するシステムを開発した.評価の結果,学習者の身体動作は学習状態を把握する一つの指標となり,教育的に利用できる可能性が示された.さらに,非言語情報の応用として,日本語学習者に相づちを教授し,その効果を測定した.その結果,自然言語接触よりも教授を受けたほうが相づちは習得されやすく,教授により相づちに対する意識と学習習慣が変化することが明らかとなった.
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