近年の医学教育を取り巻く環境の変化から、生体を用いることなく医学知識と臨床体験とを結びつけることが出来る、仮想現実感(Virtual Reality: VR)技術を用いたシミュレーション医学教育の必要性が指摘されている。しかし、VR医学教育環境は実体間が乏しく、利用には一定以上の計算機利用能力が問われることから、大きく普及するには至っていない。本研究では、複合現実感(Mixed Reality: MR)技術を利用し、VRの有する可塑性と実環境の有する実体感を与えることで、現実感の乏しさを解消でき、情報リテラシー不足から来る利用バリアを解消できる情報化医療教育環境(MR医学教育環境)の実現を目指す。 本年度は、直接操作可能な人体型MR情報提示環境の構築を行い、一般医学教育適用の可能性を検討した。具体的には、柔らかい素材で人体形状をしたバックプロジェクション型スクリーンを作成し、当該スクリーンをユーザが押さえることで発生する歪みを画像計測して、ユーザが直接スクリーンを押し込むことで直接操作出来るMR人体模型を実現した。加えて、超音波プローブ型の入力デバイスをスクリーンに当てることで任意の断層像を提示できる環境を実現した。実現MR人体模型を事前説明無くユーザに与える実験を行い、ユーザが人体内部を閲覧して学ぶ行動がスクリーンやデバイスの形状が持つアフォーダンスによって自然に喚起されることが明らかになった。 本年度の研究成果から、当初目論んだとおり、実環境の有する実体間を利用することで、利用に至るバリアの低い医学教育環境を実現できることが明らかになった。
|