本研究は、学習者の課題探求能力・問題解決能力を養うことを指向して、実世界の現象をモデル化する能力、現象の性質を考える能力の獲得を支援する学習支援システムの実現方法を明らかにすることを目指している。今年度は、現象について考えるきっかけを与えるための手段として実験器具と測定装置を与えて自由に実験を設計する課題を設定し、実験の設計支援を行う方法について研究を行った。さらに、対象領域の基本原理・基本法則を用いて現象を理解させる支援システムに必要となる機能と持つべき情報について研究を行った。 実験の設計支援では、学習者に実験計画を入力・編集する手段を与え、それを診断して適切でない部分を同定する機能が必要となる。そこで、力学の物理実験を対象として、実験する現象、測定対象、目的物理量、解析方法を入力させて、学習者の理解が十分でない部分を特定する機能を実現した。診断は、物理法則を診断システムに与えておき、学習者が設計した実験・分析の物理量間の関係と照合することで実現している。診断の予備的な評価実験を行ったところ、実験計画の不適切な部分、微小項目を意図して省略したかどうかの確認を要する部分の検出に成功し、現象について考えさせる材料を抽出できた。 また、基本原理に立ち返って現象を理解させるために支援システムに必要となる情報について力学を対象にして考察し、系に存在する物体間に働く力の関係を、ネットワーク構造で表現する方法を明らかにした。さらに、物理法則に従って発生原因から力を伝播させていくことで、ネットワーク構造を自動生成する方法について検討した。このメカニズムを利用することで、支援システムが力の因果関係を学習者に説明する能力を得るので、理解支援の情報源とすることができる。
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