人間の可聴域上限は20kHzを超えない。一方、先端的な脳科学の応用により、可聴域をこえる高周波成分が可聴音と共存すると、心身の健康と感性情報処理に深く関わる脳幹・視床・視床下部とそこから前頭前野に投射する神経回路(基幹脳ネットワーク)の活性が高まり、知覚される音質も著しく向上することを研究者らは見出した。そこでこの研究では、周波数帯域が可聴域に限定されたデジタル音源について、原音と近似したスペクトル構造と音質を実現する帯域伸張システムを実現し、その効果を複数の生理・心理的効果を確認するとともに、実技教育への応用について検討することを目的としている。 研究初年次にあたる21年度は、まず、帯域伸長技術を適用して効果を検証するための音源を得るために、100kHzを超える高周波成分を豊富に含む楽器音を選択し、高速標本化1ビット量子化方式(サンプリング周波数5.6448MHz)の超広帯域音響収録システムを構築して、超広帯域収録を行った。そして、これらを22.05kHz以上の信号を含まないCD規格に変換した検証用音源を複数作成した。これらの検証用音源について、K2技術、サンプル値制御理論、フルーエンシー理論などの既存の周波数帯域伸張技術をもちいて広帯域化を行った。あわせて、それらとは異なる原理によって可聴域を上回る高周波帯域の信号を付加する手法を開発した。 これらの手法によって帯域伸長処理をほどこした信号と、広帯域の原録音物とについて、高速フーリエ分析による周波数パワースペクトル分析、最大エントロピースペクトルアレイ法によるミクロな時間領域でのゆらぎ構造分析、専門家による主観的音質評価を行い、それぞれの手法の特徴について比較検討を行った。
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