研究概要 |
日本の暖温帯域を中心に分布する暖温帯落葉広葉樹林は,従来,極相林(照葉樹林)に対する二次林で副次的なものとされてきたが,東アジア大陸部では代表的大陸型落葉広葉樹林であり,この林についての植生地理学的研究が重要である.また,晩氷期以降の房総半島北部の植生を環境考古学の視点から復元すると,現在の暖温帯落葉広葉樹林は,最終氷期に低地に分布していた大陸型落葉広葉樹林を縄文時代以降,人間が利用することで成立したことになる.そこで,本研究では,従来連携がなかった植生地理学と環境考古学を融合して,極相林(照葉樹林)に対しての二次林(コナラ林,シデ類林)と捉えられていた日本の暖温帯域に分布する落葉広葉樹林の生い立ちや植生地理学的位置づけを新たな視点から統一的に理解する.極相林-二次林の対立的植生観を打破し,日本のコナラ林,シデ類林が大陸型落葉広葉樹林の一角を形成する重要な存在だという,従来とは全く異なる新たな植生地理学的理解を提示することを目的とする.平成21年度は,現生植生地理の文献調査を行うとともに,西南日本を中心とした低湿地遺跡の報告書に記載されている大型植物化石資料のデータベース化を行った.さらに,大阪市立自然史博物館等での標本調査も行った.奈良県南部の晩氷期の大型植物化石データや新潟県魚沼丘陵の最終氷期最寒冷期の花粉データからは,最終氷期最寒冷期にはトウヒ属,チョウセンゴヨウやカラマツなどの針葉樹が低地で優占していたものの,その中にイヌシデ類やコナラ属の小林分が中部・近畿地方内陸部にまで広く分布していたため,晩氷期の急激な気温温暖化に伴ってそれらが急速に広がり,完新世前半には各地で落葉広葉樹林の主要構成要素になったことが明らかになった.
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