研究概要 |
NanoSIMS分析を行うのに適当な大気エアロゾル試料の採取および標準試料の作製方法について検討し、それらを用いて、平成22年の3月10日から31日までJohnson Space Centerにおいてエアロゾル試料のイオウ同位体分析を行った。標準試料は、イオウ同位体比がわかっている市販の二種類の標準物質粉末を用い、顕微鏡下でイオン研磨した金板上にマニピュレーターで並べて作製した。エアロゾル試料は、三段式カスケードインパクターを用いて、カーボンテープに貼り付けた金箔上に捕集した。平成22年の3月初頭に2回、熊本市内で採取したもので、気塊が東から来た日と西から来た日を選び、多くが硫酸塩粒子である径0.3μm以下の粒子試料を分析に用いた。NanoSIMS分析は、専門家であるScott Messenger博士の指導と補助のもとで行った。機器の性質上、分析時の質量分別によって実際の同位体比と異なる数値が出るため、セッション毎に同位対比が既知の標準試料も同時に分析し、未知試料のデータを補正する方法をとった。NanoSIMSでのイオウ同位体分析は例が少なく、機器の調整が必要であったが、最終的には標準試料の測定誤差は±1%以下におさえることができ、二種類の標準物質の組成比の差(~35‰)も正しく再現できた。未知試料の測定誤差は2~5‰であり、気塊の経路の異なる二試料の差はあまりなく、δ^<34>Sが-1.5~+55‰の範囲で、これまで日本の都市で得られたバルク試料の分析値(Kawamura et al., 2001など)とそれほど変わらない数値だった。標準試料の作製とエアロゾル試料の採取方法に改良の余地があるものの、分析法には確かな基準ができた。試料の問題点には改良を加え、次回のNanoSIMS分析では、再現性や分析精度をより高めて有意義なデータを得ることができると考えている。
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