前年度3月に行ったNanoSIMS分析の成果を受け、標準試料および未知試料の捕集方法を改良して、9月中に再びJohnson Space Centerにおいてイオウ同位体分析を実施した。標準試料は、市販されている二種類の硫酸バリウム粉末(δ^<34>S:0.5‰と-34.1‰)を乳鉢で粉砕した後純水中に分散させ、金箔上に滴下して乾燥させたものを用いた。未知試料は、交通量の多い道路(A)、海からの風を受けた山上(B)、阿蘇山火口付近(C)の三地点で、空気力学的径0.3μm以下の粒子を金箔上に採取した。前回と異なり、標準試料、未知試料ともにNanoSIMS分析前に金箔上にプレスして表面を平坦化し、分光系の調整法も改良した結果、再現性が著しく向上し、前回ではばらつきが大きすぎて測定不可能だったδ^<33>Sの測定誤差も、標準試料で±2‰前後に抑えることができた。三種類の未知試料のイオウ同位体比は、ほとんどの分析点でδ^<33>Sおよびδ^<34>Sの誤差が±2~4‰の範囲に収まり、いずれもほぼ分別直線上にプロットされる。しかし試料採取地点により明確な同位体比の違いがあり、δ^<34>SにしてAが-30~-25‰、Bが-17~-6‰、Cが-21~-15‰であった。さらに、Bではイオウとともに炭素が多い粒子(おそらく有機化合物)があり、炭素の少ない粒子(硫酸塩)よりも重い同位体に富む傾向が見られた。上記のδ^<34>Sの数値はこれまでのバルク試料の分析で得られている数値(~+5.5‰)よりも著しく低い。この原因については、マトリックス効果の影響や、用いた標準試料の問題が考えられる。発生源の異なる試料でイオウ同位体比が明確に区別できること、同一試料内でも組成の異なる粒子で同位体比の違いが見られることが明らかになり、大気エアロゾル研究におけるNanoSIMSの有用性を示すことができた。
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