研究概要 |
日本に飛来する黄砂の起源の一つと考えられているモンゴルの乾燥地帯に着目し,モンゴル全土から採取された表層土壌試料のウラン同位体比を求めた.分析は酸可溶性部分と酸不溶性部分とに分けて行った.この結果,酸可溶性部分のU-235/U-238比が天然比に対して有意に高い試料が見出された.酸不溶性部分は天然比に等しいことから,モンゴルの表層土壌に含まれる濃縮ウランは二次的に付加されたものであると考えられた.天然におけるU-235/U-238比の変動は無視できるほど小さいので,天然と異なるウラン同位体比は人為的な核活動に由来する.モンゴル表層土壌中の濃縮ウランは,その西方に位置する中国のロプノール核実験場,あるいは旧ソ連のセミパラチンスク核実験場から飛来した核実験フォールアウトである可能性が高い.したがってユーラシア大陸の表層土壌が核実験により広範囲に汚染されている可能性が示された.一方,日本国内の大気降下物中にも濃縮ウランが見出されているが,この場合は酸不溶性部分に見出されており,酸可溶性部分は天然比である.したがって国内の大気降下物に含まれる濃縮ウランの起源を直接的にモンゴルの表層土壌に求めることはで去かい. 国内に輸送される風送塵の由来を知る上で,ウラン同位体比とともに着目しているストロンチウム同位体比については,同位体比を測定する上で必要な,土壌試料ならびに大気降下物試料からのストロンチウムの単離手法の検討を行った.ウラン選択性樹脂とストロンチウム選択性樹脂を併用して,一つの試料溶液からウランとストロンチウムをそれぞれ単離するスキームをほぼ確立するに至ったが,実試料でのストロンチウム同位体比の測定にはまだ至っていない.
|