21年度の調査では、漁業権放棄のプロセスについて調査を行った。22年度は、その次のステップとして、漁業権放棄における補償金額の調査、およびさらに詳細な交渉プロセスの調査を行った。 具体的には、大阪、広島、山口、神奈川などの公文書館において、漁業権放棄と漁業補償に関する公文書の開示請求を行い、そのうえで閲覧を行った。その結果、以下のようなことが明らかとなった。 1)金額のデータについては、公文書に残されており、正確な理論分析のベースが存在している。 2)同様に漁業補償の対象となる魚種についても、正確な記録が残されている。 3)漁業補償の金額については、一定のルールが決められており、まずはそれに基づいて算出される。 4)ただし、そのプロセスにおいて、漁業者の損益のみが考慮に入れられている。 5)したがって公共の利益全体を直接計算し、その値が交渉プロセスに組み込まれていることはない。 前年度の調査と合わせて、開発における実際のステークホルダーと補償交渉プロセスにおいて考慮に入れられるステークホルダーとが異なっていること(補償交渉プロセスにおいて考慮に入れられていないステークホルダーの存在)を明らかにすることができた。 さらに、交渉のプロセスにおいて、meetingが繰り返されることより、理論分析の観点からはcostly meetingである可能性が高いことが分かった。この場合、漁業組合、自治体双方にとってcostのかかる交渉である。これは権利の配分を確定するだけでは効率的な開発の意思決定が行われにくいことを示しており、本研究の目的である法経済学的な分析にとって重要な知見を得たと考えている。
|