胎生期低亜鉛状態が胎児ゲノムへのエピジェネティクスによる刷り込みを引き起こし、成熟期における環境化学物質曝露に対する感受性を変化させるのではないかという仮説を基に、胎生期低亜鉛状態により変動する環境化学物質の毒性関連遺伝子群についてのエピジェネティクス解析を行った。 遺伝子発現解析を行った毒性関連遺伝子群の内、重金属毒性軽減作用や亜鉛恒常性に関与することが知られているメタロチオネイン2(MT2)のカドミウムによる誘導が、胎生期低亜鉛環境を経験した個体において上昇することを見出した。また、そのMT2の誘導能の上昇は、MT2プロモーターのアセチル化ヒストンH3およびH4レベルの上昇というエピジェネティクス修飾によるものである可能性が示唆された。 以上から、胎生期低亜鉛環境は、仔にエピジェネティクス影響をもたらすこと、ならびに成熟後の環境化学物質曝露に対する感受性を変化させる可能性があることが明らかとなった。また、今回解析した毒性関連遺伝子群に加え、他の疾患に関連する遺伝子群にもエピジェネティクス変化が起きている可能性がある。本研究結果は、成人期における疾患発症は胎生期における環境に起因するという「Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD)」概念を、必須元素である亜鉛不足と環境化学物質影響の面から支持する実験的証拠を提供したと言えよう。
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