研究課題
本研究は、環境汚染物質やその代謝物が鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解するため、脳神経系へのリスクが懸念されているOH-PCBsの分析法を開発し、その蓄積特性と脳移行について検証することを目的とした。平成22年度は分析条件を検討し、脳および肝臓に残留する3-8塩素化体OH-PCBsの新規分析法を確立した。平成23年度は開発した分析法を用いて、鯨類の中でも特に沿岸性が強く、人間活動の影響による個体数の減少が危惧されているスナメリ(Neophocaena phocaenoides)を対象鯨種とし、2005年から2010年に瀬戸内海および大村湾に漂着・混獲したスナメリ13検体の脳を分析した。分析の結果、すべての個体の脳からPCBsおよびOH-PCBsが検出された。PCBsおよびOH-PCBsは血中よりも脳内に高蓄積していた。さらに、脳への移行・蓄積レベルは血中濃度によって変化することが示された。PCBsは血中濃度と脳内濃度の間に有意な正の相関が認められ(p<0.05)、脳内濃度は血中濃度依存的に上昇することが示唆された。血液および脳内のOH-PCBs濃度にも有意な正の相関が認められ(p<0.05)、OH-PCBsはTTRに結合して血液脳関門を通過し、脳へ移行していることが推察された。PCBsは血液と脳組織中の異性体組成が類似していたのに対し、OH-PCBsでは異なる異性体組成が認められた。血液では3、4塩素化体が相対的に高割合を示したのに対し、脳内では5塩素化体が高値を示し、5塩素化OH-PCBsの脳への特異的な移行と残留が示唆された。OH-PCBs異性体の血中濃度と脳内濃度の比を算出し、脳へ移行しやすい異性体の特定を試みた。濃度比が1を超え、脳内濃度が血中より高値を示す異性体は、4OH-CB97、4'OH-CB101/4'OH-CB120、4'OH-CB25/26/4OH-CB31、3OH-CB25、4OH-CB162および4OH-CB172であった。これら異性体はすべて水酸基がパラ位又はメタ位に置換しており、その片方もしくは両側に塩素原子が置換するT3、T4様構造を有していた。以上の結果から、これらの異性体は甲状腺ホルモンの恒常性を撹乱し、脳神経系へ影響を及ぼすことが示唆された。
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Interdisciplinary Studies on Environmental Chemistry
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Environmental Pollution
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http://www.ehime-u.ac.Jp/~cmes/tanabe/04_proiect/proiect_s.html