研究概要 |
ビスフェノールA(BPA)はエストロゲン様作用を持つ化学物質であることが知られているが,同時に甲状腺ホルモン様作用を持つことも報告されている.この甲状腺ホルモンは形態形成を制御する重要なホルモンであり,動物の発生・成長には不可欠である。ところで,内分泌撹乱作用のあるビスフェノールAのヒトの胎児期や新生児期での曝露が,その後の中年齢者や高齢者へのどのような影響があるのかについては,いまだ不明である.そこで,実験動物としてラットを用い,周産期でのビスフェノールA曝露が中齢期,老齢期になったラットの機能にどのような影響を与えるのかについて,形態学的ならびに生理学的に解析することを主目的として研究を継続している.さらに,得られた結果をもとに,加齢に伴うヒトの機能障害とBPA曝露との関連について検討する. 実験にはWistarラットを用いている.すべての実験動物(<1>BPA低用量曝露群,<2>BPA高用量曝露群,<3>対照群)は,東京都健康長寿医療センター・東京都老人総合研究所・実験動物施設のSPF環境にて厳密に管理された条件下で飼育し,現在も継続中である.今回は低用量曝露,高用量曝露,無処理の中齢期(12-13ヶ月齢)ラットを,雄雌各6匹ずつ使用し,体重,甲状腺ホルモン,生殖腺ホルモンについて検討した. 体重は曝露群と無処理群との間では変化は認められなかった.しかし,雌の曝露群で乳腺腫瘍の発生増加が認められ,これが体重に影響を与えている可能性も考えられる,甲状腺ホルモン量は,曝露群の雄では増加傾向であったのに対し,雌では逆に減少傾向を示した.この雌雄間での違いについては検討中である.血中テストステロンとエストロゲンはともに減少傾向がみられ,BPAの周産期曝露による生殖機能への影響が示唆される.今後,BPA曝露による老齢ラットの変化についての解析を進め,それらを基にヒトへの影響について考察する.
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