研究概要 |
本研究は金属の単原子接点のRF信号透過特性を実験的に明らかにすることを目的としている.平成21年度は同軸ケーブルを利用した実験を行い,以下に述べる成果を得た. 1. 同軸ケーブルを電極とするMCBJ(機械制御破断接合)の開発を行った.電極材は0.3mm径のCu単芯線を中心導体とする50Ω極細同軸ケーブルであり,その中心導体にノッチを入れて破断することによりMCBJを形成した.同軸ケーブルを使用すると電極が基板に密着しなくなるため接合の制御性が悪化することが懸念されたが,特に問題は無く,室温大気中でself-breakingの手法を用い,約10秒程度の寿命の長いCuの単原子接点を形成することに成功している. 2. Cuの単原子接点が形成されている状態で接合に矩形の電圧パルスを入力し,透過信号をオシロスコープで直接観測することを行った.電圧パルス幅は50~500nsである.透過信号は矩形波が積分回路を透過したときの波形を示しており,Cu単原子接点と浮遊容量とにより積分回路が構成されていることがわかる.Cu単原子接点が1GOのコンダクタンスの純抵抗と仮定すると観測された時定数をほぼ説明することができ,またCu単原子接点の代わりに10kΩの固定抵抗を用いた時にもCu単原子接点の場合と同じ透過信号波形が得られた.これらの実験結果は,50nsまでのパルスに対してCu単原子接点が純抵抗として振舞うことを示している.量子接点のアドミッタンスに関する理論から概算されるCu単原子接点のコンダクタンスの虚数部分はMHzの帯域では無視できる程度に小さく,今回の電圧パルス透過実験の結果は,この理論予測と矛盾していない.
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