近年、再生医療の一つとして患者から取り出した細胞をもとに、体外で臓器を構築し、再度体内に戻して使用する技術が注目されているが、栄養分配や老廃物の除去を担う血管組織を作製できないために臓器まるごとの再生には至っていない。そこで、申請者らはマイクロ化学チップを用いて血管組織を体外で構築・回収する新規技術を提案した。即ち、マイクロチップ内壁にナノパターニングを施した温度応答性ポリマーを塗布し、血管細胞培養後、温度を下げて細胞を管状に剥離・回収するというものであり、移植用血管や三次元血管モデルとしての利用が期待できる。 本課題においては、まず上下2枚のガラス基板が分離可能なマイクロチップを作製した。ガラス製マイクロチップは通常、マイクロ流路以外の接合面へ溶液をリークさせないために上下2枚のガラス基板を高温条件下で圧着し、ガラス基板同士が完全に密着して分離できない。ガラス基板を分離できるマイクロチップの作製には、高温圧着なしでマイクロ流路以外への液漏れを防ぐ必要がある。そこで、マイクロチップ全体に均一に圧力を加えられるホルダーを開発した。 次に、マイクロ流路内壁面に固定化した温度応答性高分子を用いた管空状血管網の回収手法を確立した。培養細胞は、接着性タンパク質を介して表面に接着しており、タンパク質分解酵素を用いた回収法では、細胞間接着を維持した状態では回収できない。東京女子医大・岡野教授らは、ポリN-(イソプロピルアクリルアミド)を固定化した温度応答性表面を用い、その表面が疎水性を示す37℃で細胞を培養後、培養温度を下げて表面を親水性にすることで、接着性タンパク質を保持した細胞シートの回収を実現している。今回、この方法を応用し、温度変化による細胞接着/脱着制御を可能にする表面を作製し、血管回収チップの基盤技術を構築した。
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