本研究の目的は、海水環境下できわめて迅速に接着硬化する、フジツボキプリス幼生の接着剤のしくみをまねることで、水中で働く瞬間接着剤を考案する手がかりを得ることである。本年度は力測定系を含むアッセイ系の開発を中心に行った。 1)原子間力顕微鏡(AFM)を用いた塩水環境下でのマクロ接着力の定量化法の開発 原子間力顕微鏡を用いた一分子の力測定に習熟した北陸先端大学院大学の川上講師、谷口博士の助けを借り、秋田県立大学で海洋生物の接着物質の原子間力顕微鏡によるマクロ力測定システムの開発を試みた。実験のポジティブコントロールとして、ムラサキイガイのDOPA含有ペプチドを主成分とする市販のCell-Takを用いた。重炭酸ソーダ水溶液で活性化したCell-Takをマイカ表面に載せ、プローブと接触させることで、接着物質をプローブに付着させた。ついで、プローブに付着させた接着物質と、新たなマイカ表面との間に生じる力を液中環境下で測定した。その結果、コントロールのBSAでは見ることのできないさまざまな応答を記録することができた。ある場合には100nNで約1μm持続する興味深い特徴的な応答を得ることができた。以上の結果から、フジツボ幼生の接着タンパク質と基盤、または接着タンパク質問の相互作用を、原子間力顕微鏡を用いて測定する手法をほぼ確立した。 2)フジツボ幼生タンパク質の組換えタンパク質ドメイン、およびそれらのドメイン由来のさまざまな部分ペプチドの調製 キプリス幼生セメントの硬化に関与する可能性のあるリシルオキシダーゼの組換えタンパク質は大腸菌でつくることに成功していない。そこで、分泌発現系であるBrevibacillus発現系を用いて、組換えタンパク質の調製を試みた。その結果、大腸菌ではこれまですべて不溶化していたリシルオキシダーゼを可溶化した状態で発現させることに成功した。
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