本研究の目的は、海水環境下できわめて迅速に接着硬化するフジツボキプリス幼生の接着剤のしくみをまねることで、水中で働く瞬間接着剤を考案する手がかりを得ることである。 本年度はまず、鍵を握る活性型酵素を大量に得るため、大腸菌発現系とBrevibacillus発現系を用いて大量発現させたフジツボのリシルオキシダーゼ(Ccg-LOX)がアミンオキシダーゼ活性を持つか否かをAmplex red法を用いて検討した。その結果、まったく予想外にさまざまな構築、さまざまな基質特異性を検討したにもかかわらず、活性を見いだすことに成功せず、セメントタンパク質やペプチドのAFM解析を行うという点に関し、大きな方針転向を迫られた。そこで、リシルオキシダーゼおよび他のセメント候補タンパク質の配列に間違いがある可能性を疑い、その根本的な問題を別の角度から検証・排除するため、次世代シークエンサによる発現遺伝子全長配列の網羅的な解析を行った。その結果、リシルオキシダーゼや57kなど、主要なセメント関連遺伝子の配列に誤りはないこと、さらに主要成分のひとつで、ほとんど手がかりのなかったCcg-110kが親のフジツボのセメントタンパク質100kと相同性を持つ可能性が明らかになった。一方、すでに大腸菌で発現が可能になっていたセメント主成分タンパク質57kとASPについて、リシルオキシダーゼによる架橋をAFMで調べる実験が現時点では困難なため、他の活性をみいだすべく、ナノシリカとの複合体形成能のアッセイ系の開発と海洋細菌に対する抗菌性の有無の検討を行った。その結果、組換え57kタンパク質が予想外に海洋グラム陽性細菌であるPlanococcus citreus(JCM2533)に対し、きわめて強い抗菌活性を示すことを明らかにすることができた。
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