バイオテロの標的国となる先進国や都市部では糖尿病をはじめとする生活習慣病や喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の患者数の激増と、その重症化が社会問題化しているが、このような宿主は感染症において健常人と異なる感染免疫応答を展開する可能性がある。本研究では、我が国において高い罹患率を示す慢性疾患のうち、糖尿病およびアレルギーに絞り、これらの患者がバイオテロ細菌の暴露を受けた場合の危害分析を行った。検討には、2型糖尿病モデル疾患モデルマウスとアトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスを用いて、炭疽菌芽胞を接種し、潜伏期、臨床所見、生存率についてモニタリングするとともに、定期的に採血し、血液一般検査および生化学検査を行った。その結果、これらの疾患モデルマウスでは対照マウスと比較して、症状が重篤化するだけでなく、生存率も極めて低く、高い感受性を示すことがわかった。50%致死菌量は疾患マウスで有意に低かった。しかしながら、インスリン投与による血糖値コントロールを行った糖尿病マウスでは、生存率の向上が観察された。しかし、老齢の糖尿病マウスでは血糖値をコントロールしても、改善効果は認められなかった。以上の結果から、糖尿病やアレルギーなどの慢性疾患を有する患者ではバイオテロ発生時の健康被害において、高リスクグループであることが明らかとなった。
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