研究概要 |
本研究では,特異な微生物塊「天狗の麦飯」の形成・維持のメカニズムを解明することを目的としている。これまで「天狗の麦飯」が,十数種のバクテリアによって形成される微生物塊であり,分子系統解析の結果からそれらが従属栄養生育をしているものと推察されている。「天狗の麦飯」産地には明確な有機物供給経路が無いことから,形成・維持には「天狗の麦飯」微生物塊の下部構造が重要であると考え,平成21年度は,許可を得て,1箇所の産地において岩盤にあたるまでの掘削可能な深さ38cmの縦穴を掘って採取した下層サンプルの解析を行った。まず断面の色調に基づき6層に識別してサンプルを採取し顕微鏡観察したところ,いずれの層も鉱物粒子や腐植物を含まない微生物群集であることがわかった。真正細菌,真核生物,古細菌のSSU rRNA遺伝子を標的としたPCR-DGGEを行い,各層のサンプルのバンド出現パターンを比較したところ,上層(第1層:0-7cm),中層(第2-4層:7-17cm),下層(第5-6層:17-38cm)の3つに大別できた。配列解析の結果,AcidobacteriaとKtedonobacteriaが全層に主要な細菌として検出され,上層にはα-proteobacteria,下層にはβ-proteobacteriaが特徴的に検出された。また,各層サンプルの炭素安定同位体比を測定したところ上・中層が-21.5-22.8‰,下層が-24.8-24.6‰であった。下層の値はRuBisCOによる炭酸固定の際の分別効果と考えて矛盾しないこと,さらに下層に特徴的に検出されたβ-proteobacteriaが既知の鉄酸化細菌に近縁であったことを考え合わせ,鉄酸化細菌の炭酸固定が炭素供給源として重要な役割を果たしているものと考えられた。さらに産地探索によって,研究報告例のない産地2箇所を新たに発見した。
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