本年度の研究の成果は、東アジアの文明の基盤である中華の文明、その内実としての「礼」の特質と機能について、分析の手懸かりを得たことである。これは21年度からの研究の蓄積の結果によるものであり、その要点を22年10月に学会において研究発表した。 【その内容】 1. 礼の起源でもあり、かつその中心をなす祭祀に着眼し、日本との比較において考察した。 2. 殷墟のト辞の頃から伺える、大陸の信仰・祭祀と、近年考古学的研究が進んでいる日本の弥生から古墳時代にかけての祭祀には共通した性格がある。 3. 天神・地祇・人鬼である。日本では人鬼の祭祀は元来なく、後に発生した。 4. 中華の文明(儒教)では、これを礼、とくに五礼の中の吉礼として組織化・理論化した。これは漢代より始まり、その一応の完成期は唐代と見られる。しかし教義と言えるものはない。 5. 日本においては、中華の文明を導入し国家形成をはかった際に、律令体制の一環として祭祀制度を組織化し整備した。しかし、その時「礼」として理論化したのではなかった。国家の官制(神祇官の設置)として組織化し、後に神道となるが、自立した理論は乏しく、仏教と習合したり、国家と一体化し「国家神道」となったりして存在した。 6. 吉礼祭祀は、礼であるので、必要な礼を誠敬の念をもって履行すれば、他の内面的信仰は自由だと言える。仏教・道教・回教・天主教を信仰する皇帝や大官は歴史上事欠かない。 7. 神道は、仏教との習合の様相は複雑で多様だが、国家神道は一般の宗教信仰を超えたものと規定されており、その性格は律令以来の歴史性を色濃く出している。 8. 礼の認識と受容の困難さは、歴史的文化的展望をもって考察する必要があろう。
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