本研究では、中国思想に淵源をもち、韓国の儒教において特徴的に見られる「図説」と、同様に中国文化に淵源をもち、日本では中世の五山文学の時代から近代初頭まで盛んに製作された「書画」を中心素材とし、また図像と文献、中世の禅と近世の儒教、韓国思想と日本思想、都市と地方といった複数の分析枠組みを駆使して、14Cから19Cの儒学を中心とした日本の学術・文芸の特色を、東アジアの思想史・文化史(特に儒教文化が民衆の生活レベルにまで浸透したと言われる韓国のケースと比較)の中に位置づけ、その性格を明らかにすることを試みた。「図説」や「書画」の現物調査を可能な限り実施しながら、同時にそれを儒者などの文集に残された図の解説や「序・題跋・銘賛」などと突きあわせることによって、従来の文献中心の研究では捉えきれなかった前近代の学術・文芸界の性格の豊かな再現に向けての作業を行った。 より具体的には、前年度に引き続き、日本思想・韓国思想関係の「図説」「書画」類の収集・実物調査を行い、「図説」「書画」の分析に必要な史料・参考文献の収集を継続した。基礎資料の収集は、佐賀県立図書館、西尾市岩瀬文庫、成田山仏教図書館などを中心とした。整理・分析は、平成22年度の作業を継続し、そこから当時の学術・文芸を支える社会的基盤や、知的ネットワークのあり方を浮かび上がらせるべく総合的な分析を進めた。また「図説」「書画」に関する日本・韓国・中国の研究文献を収集し、研究成果を整理し、その達成点と今後の課題を展望するための準備を行った。都市と地方の社会・文化を中心とした周辺領域に関する研究文献を継続して収集し、前年度における研究動向を探る作業とあわせて、本研究の課題に即した考察を行うための準備を行った。
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