近代日本における石膏像受容の特質を明らかにする研究の第一段階として、本年度は、国内外での基本情報の収集に力を入れた。国内では、岡石膏、文房堂、ブロンズスタジオ、武蔵野美術大学など、石膏像の製作・販売・利用の現場を訪ね、作品・資料調査を進めると同時に、聞き取り調査をおこない、石膏像の歴史および現状をめぐる見解、言説および心性の把握・理解に努めた。また、各地の美術館の作品調査を進め、石膏像をモチーフとする絵画作品のリスト化に着手した。国外調査としては、ミラノ、ローマのアカデミーを訪れ、18世紀以来の石膏像のレパートリーおよび収集の経緯に関する資料調査をおこなった。また、ボローニャ市立考古学博物館においては、イタリア王国が19世紀後期から一種の国策として石膏像の流通を管理する実態を、一次資料で確認した。アジア域内では、北京、中央美術学院を訪れ、作品調査をおこない、また、石膏デッサン実習で、同国(同学院)ならではのデッサンスタイルにふれた。 以上の調査研究によって強く確認されたのは、1.国・地域・時代によってアカデミー向けの石膏像のレパートリーが異なること2.国・地域・時代によって石膏像の利用の仕方が異なること、である。 今後は、19世紀と20世紀のそれぞれの時代にあって、石膏像供給の最重要拠点であった、ナポリ国立考古学博物館とルーヴル美術館での調査を実施し、18世紀ヨーロッパから現代日本にいたる石膏像レパートリーの歴史を概括すると同時に、日本国内の地域的な石膏像受容に関する調査・記述を進めたい。最終的には、上記の1. 2.の原因ないし背景の分析を目指す。
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