近代日本における石膏像受容の特質を明らかにする研究の3年次して、平成23年度も国内外での情報収集を実施した。国内では、明治以来の展覧会目録、および美術館所蔵品目録の調査を進め、石膏像をモチーフとする絵画作品の確認を進めた。また、石膏像取引の推移・現況に関する聞き取り調査を画材商に対しておこなった。国外については、平成22年度中に実施したボストン美術館およびローマ大学附属美術館、ナポリ国立アカデミー調査に関連する資料を分析し、さらに新規に、フィレンツェのアカデミア美術館やポッサーニョのカノーヴァ美術館において、18世紀後期~19世紀前半の石膏像に関する実地調査をおこなった。このうち、一連の国内調査および平成22年度国外調査の成果をふまえ、「石膏模像の機能と石膏デッサンの様式」を執筆・公開した(『人文科学論集<文化コミュニケーション学科編>』信州大学人文学部、第46号)。同論文においては、まず西洋における石膏模像受容の歴史をたどりなおし、その研究手段としての特性を確認。そのうえで、むしろ教育手段に特化する日本のそれの特徴を明らかにし、さらに、その特徴が日本の石膏デッサン様式の展開を可能にしたと指摘した。論旨の前提、すなわち、ヨーロッパにおける石膏像の重要性は、今年度の国外調査の成果をひきつづき精査することで、いっそう明らかとなるだろう(複製手段としての石膏像)。一方、日本の石膏デッサン様式の特徴については、その類型を中国や韓国の現代の美術教育の現場に見いだしうることが、平成21年度以来の実地調査・資料調査によって確認されている。 以上、全体として、18世紀から現代に至る、イタリアから欧州・アメリカ、さらに東アジアにひろがる石膏模像とそのデッサンの通史が、本研究によってはじめて示されつつあると言えるだろう。
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