日本映画の躍進はめざましい。しかし、今日のブームが到来するまえ、日本映画が海外でどのように扱われていたか、その実態はまだ本格的に研究されてはいない。じつは北米において日本映画の多くは、無傷のまま公開されることはなかった。改変につぐ改変であり、なかには改変のうえ「外国映画として」公開された例もある。 このように日本映画が勝手に描きかえられて公開された事実は、メディア交流史からは忘れ去られている。本研究の目的は、そのように忘れ去られた「改変」の実態を解明することである。 取り上げる時期は、日本映画が海外で紹介されはじめた1945年から、国際的地位を確立する1985年までの40年間である。日本映画を受容し、改変した外国として、戦後の日本映画に多大な影響をあたえたアメリカ、およびその隣国のカナダを取り上げたい。 本研究で解明したいことは、つぎの2つに要約される。 (1)北米で公開された日本映画の改変の状況を、一作品ずつ調査し、改変が「なぜ」「どのような経緯で」行われたのかを明らかにする。そのさい、改変を可能にした要因として、北米の一般大衆の対日感情・心理を視野に注目する。 (2)北米で「公開されなかった」日本映画との比較のうえに立って、「公開・改変された」日本映画の北米における戦後受容史40年(1945~1985年)を再構築する。 本年度は、上記の目標のうち(1)を実践した。そのため、研究の基盤となる映画データを採取・収集した。具体的には、(A)日本映画の「オリジナル版」に存在するシーンと、(B)それが北米において書き換えられた「改変版」のシーンを1セットにして、作品ごとにそうしたセットを検出したものは、かなりの数にのぼる。これは世界初の試みであり、このセットの集合体だけでも、日本映画の改変を示すデータベースとして利用できるはずである。
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