前年度に引き続き、日本におけるオペラ創作の歴史的府瞰の範囲を1945年以前の作品に広げ、収集と作曲技法的分析に取り組む。作品数としてははるかに少ない時代であり期間であるが、現在からの時間的な懸隔は広がるので、個別の楽譜資料等の現存率は低下すると予想されていたが、ひとつひとつの所在を確認する作業上で、やはり多くの困難に遭遇した。しかしながら、資料散逸の程度が分かったことは、今後の研究可能性の枠組みを規定する上で重要であったと考えている。むしろ、現存する作品資料をいかに保存するかが問われねばならないという認識も強まった。さらに素早い収集作業が望まれる。 オペラ作品の分析においては、オペラのみならず、むしろジャンルを声楽作品全体に広げて、そのなかでの日本語の取り扱いの歴史的変遷や語感のあり方、洋楽的な旋律化への前人未踏の工夫の痕跡を、邦楽的な手法との関係においても視野に入れて分析を試みた。その成果は、単著『戦後の音楽』のなかにも、前史として盛り込んだが、まだ洋楽よりも邦楽が、多くの聴衆にとっては音楽文化の中心をなしていた時代であることを考慮しつつ、実作面と同時に、作曲家たちのオペラ論・作曲論等々の記述を比較しながら、創作の特性を分析した。こうしたことに関する先行研究としては、これまでまとまったものは存在しないので、成果は大きかったと考えている。
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