浪曲と津軽という二つの分野の三味線音楽においては、どのような「即興」が行われているのか、との問題に関する研究として、本年度は以下の途中成果をあげた。 1.浪曲三味線と津軽三味線に関する文献資料の収集を行い、そのうち、浪曲三味線に関する明治期以降の文献に関しては、記載されている様々な「ふし」の整理と内容分析を行って、その歴史的推移を把捉した。 2.浪曲三味線と津軽三味線に関する録音物の収集を行い、その一部について五線譜化を行った。 3.日本浪曲協会主催の三味線教室(東京都台東区雷門)を含む複数の「お稽古」のフィールドで、録音とフィールドノーツ作成を継続的に行い、前者についてはその一部を五線譜化し、楽譜ソフトを用いて、データベース化に着手した。 4.大阪と東京の三味線奏者を対象にインフォーマルなインタビューの形式で聞き取り調査を行い、一部はテープ起こしをして文字化した。 上の作業は、ほとんど先行研究例のない[日本音楽における「即興」]という本研究の視座の基礎を、資料的にかためる意味で重要性をもっている。加えて、上記の作業と並行して、即興に関する海外の文献を収集し、三味線音楽での即興をめぐる理論枠組みを構築すべく検討をすすめている。こうした研究の途中成果の一部は、論文(「日本音楽における<間>概念の検討…浪曲三味線の現場から」)の形で、大阪教育大学研究紀要(平成22年度第59巻1号、人文科学部門)に掲載予定である(投稿済み)。
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