研究概要 |
【具体的内容】 (1)拙論「シャガールの描いた楽士はどんな音楽を演奏したか(3)-あるいはロシア革命前後のユダヤ人が展開した音楽について」では、第2次世界大戦中にポーランドから逃れたユダヤ人難民が、上海で展開した音楽活動(クラシックを一部含む)を探るにあたり、おもに女性が大きな役割を担った点に着目し、「プリム祭」(Purim)に由来するジェンダーの軽やかな転倒、イディッシュ劇創始者アブラハム・ゴルドファーデン(Abraham Goldfaden)の、演劇への積極的な女性の登用などの点から、クレズマーに連なる音楽が女性に引き継がれていった過程を追った。 (2)2010年3月5日~8日にはクレズマーの代表的研究者、サン・ディエゴ州立大学イェール・ストローム氏(Yale Strom)氏、UCLA大学エリザベス・シュウォーツ(Elizabeth Schwartz)氏を招聘し、「東欧での民俗学調査の実際」「クレズマー音楽とロマ音楽との違い」「ルーマニア民謡とルーマニア・クレズマー音楽との類似性」をテーマに、大阪大学および立教大学でシンポジウムを開催することができた。こんかいの招聘を通じてこれまでの不明点を解明するとともに、本研究課題の対象ミッキー・カッツ(Mickey Katz)の第1次資料(具体的には"C'mon a My House", "Dovid Crocket", "Heym Afn Range"など、聞き取りの困難なYinglish語の歌詞)を入手することもできた。 (3)ただいま共訳中のLeo Rosten著"The New Joys of Yiddish"のうち、黒田担当分がほぼ完成していることを併せて報告しておく。 【意義・重要性】 (1)では従来の研究が等閑視してきたポーランドからのユダヤ人移民の音楽を詳述し、(2)で触れたシンポジウムは日本ではあまり類例のない企画であり、ミッキー・カッツの歌詞をYinglishに起こした前例もほとんどないことから、当該年度で実施した研究の意義・重要性は十分にあったと判断する。
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