本年度は、室生犀星記念館(金沢市)および石川近代文学館(金沢市)に所蔵されている室生犀星の著書の撮影と著書に関する調査を3回(平成21年7月7日~8日、9月7日~9日、平成22年2月9日~11日)行った。両館ともに一日の資料閲覧と撮影が3時間~4時間に限られていたこともあり、1回の調査につき30冊~50冊の閲覧と撮影が限度であった.また、事前に閲覧と撮影の許可申請をした書籍のうち展示中などの理由で、期間中に撮影できないものもあり、ジャンル別の撮影から年代別の撮影方法に切り換えた。200冊の著書のうち、本年度は134冊の写真撮影と記録メディアへの画像保存を済ませ、現在データベース化と分析を進めている。加えて、書籍の保存のため施されている保護シートをはずしての撮影ができず、保護シートをつけたままでの撮影となった書籍についての画像処理を試行している。期間初年度の調査の過程で、次の発見があった。(1)作品内容のつながりはない、『古き毒草園』(大正10年2月/隆文館)と『香爐を盗む』(大正10年年3月/隆文館)の装幀の酷似。(2)『蝶・故山』(昭和16年7月/桜井書店)について、同年月日出版にも関わらず、装幀(函、書籍本体)の絵柄が3種類存在する。(3)『蝶・故山』(昭和16年7月/桜井書店)と『甚吉記』(昭和16年12月/愛宕書房)が、内容につながりがないにもかかわらず同じ表紙模様である。これらについては、出版界の時代状況や著者の表紙用紙の入手などとの関連を含めさらに分析を進めていく必要がある。本年度の調査を踏まえ、室生犀星が恩地孝四郎や岸田劉生ら美術界で名を馳せた人物の装幀を自著に纏うことの意味は、作家のこだわりや活字文化と美術の共鳴にとどまらないことを意味していることを、室生犀星を読む会(研究会/平成22年3月/事務局:実践女子短期大学高瀬研究室)で報告した。
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