研究概要 |
室生犀星記念館(金沢市)で、犀星が書きあらわした小説のうち昭和30年代の著作の装幀について調査した。調査は、平成23年9月12日~14日,平成24年2月12日~14日に実施した。また、昭和10年~37年の出版界の動向も調査した。出版界の動向については、当初調査場所を石川近代文学館(金沢市)および金沢大学附属図書館(金沢市)を計画していたが、室生犀星記念館蔵の蔵書と資料で十分な調査が可能であることが判明したため、装幀の調査と平行して実施した。 調査結果の詳細は、次の通りである。 多くの作家が自著の装幀にかかわっていた昭和10年代については、昨年度の調査でまとめたところである。本年は出版社の意向が強くなり同時にブックデザイナーが出始め、装幀から作家の色が薄れてき始めた昭和30年代に注目した。この時代も犀星は、自装あるいは画家の装幀を纏うことを続け、出版社や編集者との話し合いを重ねつつ、晩年に至るまで装幀から犀星の色が薄れていくことがなかったことを確認した。さらに、著作の初期から晩年に至るまで自ら装幀にかかわってきた犀星と、同時代の作家たちとを比較した場合、犀星の造本意識が特異であることも確認した。これらの事項をまとめて、研究会例会(犀星を読む会)において、「こだわる自装と芸術家の作品を纏うことの意味-室生犀星の場合」として報告した。作品論からは離れるが、作家の造本意識を探っていったという点において、今までの室生犀星研究にはない視点として意義のあるものであると考える。、
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