平成23年度の研究成果は以下の通りである。 1.平成23年(2011年)は「辛亥革命」百周年の年にあたり、中国ではそれに関連する多くの書物が刊行された。また映画や展覧会も制作された。研究代表者は現在中国中原の大学にも籍があり、立場を利用して、資料収集および見学に努めた。その結果、辛亥革命の指導者の多くが日本を経由しつつ欧米に赴いて、中国の近代化を模索したことが大きな意味を持つことが分かった。 2.孫文の中華民国が成立したあと、旧勢力の抵抗や共産党の台頭、そして欧米列強および日本による領土の侵略などによって、中国は混乱する。その中で将来の人民共和国の中心人物となる朱徳、周恩来、〓小平などがフランスやドイツへ留学している。一九二〇年代から三〇年代にかけての西欧受容に一つの鍵があるように思われる。チュン・チャンやスメドレーの著作を精読して、知識を深めることに努めた。 3.平成23年9月上旬に遼寧省の丹東を訪れた。日清戦争で日本が勝利した有名な海戦があったことで知られる北朝鮮との国境の町である丹東は、フランスの思想家ポール・ヴァレリーが書いた散文「鴨緑江」の舞台となるところで、日中の西欧受容(すなわち近代化)の違いが露呈した象徴的な場所である。今後の研究テーマのコアの一つとなるであろうことを確認した。 4.平成23年12月中旬にフランスに赴き、日清戦争の記録(特に当時の絵入り雑誌などにおける報道、鴨緑江の海戦を分析・報告した軍事関係の報告書など)を調査した。またパリに住む中国系フランス人の作家や留学中の中国の大学の教員と交流して見聞を広めた。その際、指摘されたことは、中国の大学における外国語教育は、口語の習得が中心で、文学研究など本格的な異文化摂取の分野では、これからであるということである。中国における西欧文物の翻訳の蓄積などについての調査も今後の課題の一つであることが分かった。
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