本年度は研究期間の最終年度にあたり、過去2年間の研究を発展的に総括することが主たる目的であった。研究実施計画に沿って研究をすすめたが、その具体的成果は以下のとおりである。 1.近代ヨーロッパによって産出された「人種」理論に関わる科学的ディスクールの変遷を再検討しつつ、(1)植民地における人種混淆の表象とその社会的影響について、(2)人種階梯に関する「科学的」イデオロギーと男女間の序列的位置づけとの相関性について、それぞれ明らかにした。 2.人類学の誕生との関係のなかで人種理論をとらえなおす意図のもと、とくに19世紀初頭の「人間観察家協会」の位置づけについて検討した。 3.こうした科学的ディスクールが具体的に文学テクストのなかにどのような影響を及ぼしているかについては、資料が膨大であるために、現時点ではまだ十分に達成できたとはいえず、現在も研究を継続中である。とはいえ、イスラーム世界との関係については、研究実施計画に挙げていたヨーロッパにおける「トルコの表象」を追うなかで、オスマン帝国内で通訳として活動した一群の人びと(東方通詞)、さらにはそうした人材を養成する機関にあらたに光をあてることができた。これはこれまでほとんど言及されてこなかった部分である。 なお、EUへのパースペクティヴとして、「パン・ヨーロッパ運動」の系譜についてもとりあげ、とくに日本とも縁のあるリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーに焦点を定めて論及した。 研究期間としては本年度で終了であるが、過去3年間の研究を総括する意味で、これまでの成果を、1.初期人間学と人種論の展開、2.世界の読解と科学的ディスクール、3.エキゾティシズムとゼノフォビア、4.EUへのパースペクティヴ、という論点を軸に書物にまとめ、刊行したいと考えている。
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