本研究は先秦両漢文学における異文化イメージの研究を、伝世資料のみならず近年発見の相次ぐ出土資料も考慮に入れながら、総合的な視野から行うことによって、中国文学におけるエキゾチシズムの淵源を解明することを目的とするものであり、1.「中国の内なる異景」としての楚のイメージがいかにして形成されてきたか2.『楚辞』に代表される「楚歌」が、南方エキゾチシズムを象徴する詩歌形式となっていく過程の二点を明らかにすることを目標とする。研究初年度の本年は、大型叢書の購入をはじめとする環境整備に努めるとともに、一部の研究に着手した。本年度に購入した大型叢書の主なものは次の通り。(1)『歴代禹貢文献集成』(西安地図出版社):エキゾチシズムの淵源となりうる地理観・世界観を解明する基本文献の一つである。(2)『賦海大観』(北京図書館出版社):辞賦文学は辺遠や異国の珍しい風物への憧憬が強くうかがえるものであり、歴代辞賦の総集である本叢書は有用なものである。 また本年度着手した研究は、(1)『楚辞』において特徴的な題材である「忠言を容れられぬ主人公の彷徨」の特質を探り、これが中原から見た楚のイメージにどう影響したかの足がかりをつかむ(口頭にて発表済)(2)地理書的内容を持つ伝漢代作の小説『神異経』『海内十洲記』に関して、戦国期の空想的地理書『山海経』から、文体が著しく異なる両者へ、さらにその後の志怪小説へどのような過程を経て変容したかを解明する(3)先秦期の史書や思想書に多く引用される「歌」「詩」の内容や形式に注目し、「楚歌」がどのように形成されてきたのかを解明する の3点である。次年度にはこれらのうち後二者について論文もしくは口頭発表の形でまとめるとともに、楚文化を中原に伝えるのに重要な役割を果たしたと考えられる『淮南子』の精査にも着手する予定である。
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