中国先秦時代において、北方の黄河流域(中原)とは異なる独自の文化を持った南方の楚国に開花した『楚辞』文学や、これと類似する形式をもつ「楚歌」は、後世に中国の内なる異景としての南方へのエキゾチシズムをかき立てる詩歌形式となった。そうした中国のエキゾチシズムが生まれた淵源とその変容の過程を、『楚辞』を始め諸書に残る詩歌や、『山海経』とそれに続く空想的地理書を題材に精査した結果、『楚辞』自体がエキゾチシズムの産物なのではなく、秦漢統一王朝の出現や、漢代における辞賦文学や神仙思想の流行が、『楚辞』文学の「異景」への覚醒を促す要因となったことが明らかになった。
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