本研究は、作家・磯貝治良(74)の作品や評論および彼が主宰する文学サークル「在日朝鮮人作家を読む会」(以下、「読む会」)の30年以上にわたる活動を可能な限り記録し、それらを電子化して保存・公開することを目的としている。本年度は、1960年代に磯貝が同人誌『北斗』や『東海文学』に発表した小説や評論を電子化し、「読む会」のブログ(http://yomukai.blog11.fc2.com/)に掲載した。掲載したのは、「あんちゃんぽっぽ」「道」「火と灰の対話」「Kへの手記」「見えない影を掴め」(以上、『北斗』1960年~1960年)、「八箇孕石(はっかはらみいし)にて」「迷彩の陰画」「駱駝の死」(以上、『東海文学』1968年~1971年)という8編の小説および評論「ドストエフスキーノート」(『東海文学』1966年)、さらに「読む会」の機関誌創刊号~第4号(1980年~1982年)も電子化して同会ブログに掲載した。その結果、磯貝の初期作品や「読む会」初期の活動を多くの人が知ることが可能になった。また、磯貝の小説には、一貫して戦後日本社会の繁栄のなかで疎外された人々が登場するが、本研究を通して、1960年代前半の初期作品からすでに周辺人物に在日朝鮮人が描かれていることが分かった。磯貝が「読む会」を結成するのが1977年、日本で最初の在日朝鮮人文学論である『始源の光』を刊行するのが1979年であることを想起すると、磯貝の在日朝鮮人への関心がどのようなプロセスを経て大きな柱となっていくのかが、次年度の課題となろう。なお、本研究代表者である浮葉正親は、2009年9月5日、韓日日語日文学会学術発表大会で「<在日>文学との出会い-磯貝治良から学んだこと」という招請講演を行い、韓国の研究者に在日朝鮮人文学に関心を寄せることの意義や磯貝の文学作品についても、戦後日本社会研究のうえで注目すべき点があることを報告した。
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