日本語話者が多様な人称表現から文脈に応じて適切な表現を無意識に選択することや敬語・授受動詞などの待遇表現の使用については、「視点」や「立場」などの言語外文脈を加えた言語使用に関わる語用論的考察が不可欠であることは言語理論研究者の間でも広く認識されているが、本研究では言語使用を構成する本質的要素として「文脈指示の場」を措定し、話し手・聞き手・言及対象を「場」と独立に存在する個体としてではなく、この「文脈指示の場」との関係で立ち現れる関係的存在と規定することによって、上記の言語現象を適切に記述することが可能となる一般言語学的な形式意味論・形式語用論のための枠組みを確立することを目指す。 研究計画の初年度となる平成21年度については、研究代表者・連携研究者・海外共同研究者ならびに関連分野の研究者による言語理論的な研究討議を活動の中心とし、メール等による日常的な情報交換に加え、早稲田大学において3回にわたって研究打ち合わせを開催したほか、研究代表者と研究協力者が日本語・英語の学習者用辞書における位相情報の取り扱いについて取りまとめた資料を作成した。また、研究経過ならびに成果についての報告を日本認知科学会第26回大会など国内の学会・研究会ならびに第11回国際語用論学会など海外の学会・研究会において発表し、本研究計画が目指すアプローチについて関連分野の研究者の理解を求めたほか、平成21年12月26日土曜日に早稲田大学において公開シンポジウム「地球時代の未来を設計する:場の理論の展開」を開催し、言語研究者にとどまらす広く社会一般に対してわれわれの研究アプローチを紹介するとともに、場の論理の応用可能性とその社会的意義について訴える機会を設けた。
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