本研究では、北朝鮮が英語という外国語を通して、いかに子供たちを洗脳しようとしているのかという思想教育の実体だけではなく、著者がどのようにそれを実現させているのかを探った。高等中学校の英語教科書(1~6年)の序文では、金正日が外国語学習についての考え(学習の仕方など)を紹介し、英語は「朝鮮革命のため」に学ぶと目的が明確に定められている。政治的なメッセージが目立ってくるのは4年生以降の読解部分である。英語の語彙数や文型のレベルが上がり読解の内容が複雑化すると共に、北朝鮮に対する国民的感情(例えば"We are very happy under the warm care of the great leader General Kim Jong Il."など)や意識、また外国に関する記述が増している。しかし読解の量の増加、内容の複雑化と裏腹に「学生のあるべき姿」や外国のイメージは画一化されている。教科書に登場する北朝鮮の学生は勤勉で、素晴らしい学習環境と機会を与えてくれる金日成と金正日に感謝するとともに幸せを感じている。また外国に関する読解(特にアメリカ)に登場する人々は貧困や失業、病や社会階級の差、そして差別に苦しんでいる。つまり著者は子供たちに出来の悪い学生を除外し模範的学生の姿、行動、感情を記すことにより「北朝鮮の子としての行動と感情の規範」を示し、外国の恵まれない人々を描写することにより、北朝鮮の人民が恵まれた状況にいること、金正日や社会主義に守られていることを間接的に伝えているのである。「外国」に関する記述において言えることは、北朝鮮はそれを必要としているということである。単に外国の負のイメージや憎しみを植え付けるためだけではない。飢えや寒さで苦しむこともあるかもしれないが、外国はもっと悲惨であると知ることで、金正日への感謝と現状の厳しさに対する忍耐力を強化しているのである。「外国」は北朝鮮にとって人民教育のためになくてはならぬ存在となっているのである。
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