平成21年度「研究実施計画」には、(1)「役割語」研究の成果の確認、(2)写生文の収集とデータ化、(3)「写生」研究史のまとめ、を挙げた。 まず、(1)について、「役割語」研究の提唱者である金水敏氏(大阪大学大学院教授)から直接レクチャーを受け、また最新の研究成果報告書をお送りいただいた。最近の「役割語」研究の動向と成果を確認することができた。(2)については、「ホトトギス」関係者によるものを中心とした明治の写生文集(『寒玉集』『写生文集』『写生文作法及其文例』『写生文集帆立貝』『写生文範』)を入手し、分析を開始した。(3)については、まず、「愛媛大学写生文研究会」を発足させ、研究史や研究交流の場を作った。第一回研究会(10月11日)では、俳諧史研究の塩崎俊彦氏(高知大学教授)、明治文学研究の片山宏行氏(青山学院大学教授)から、写生文・「写生」研究史にかかわる基本的事項や背景についてのレクチャーを受けた。第二回研究会(2月6日)では、新進の子規「写生」研究者である青木亮人氏(同志社大学講師)に「子規の写生論」について講演いただいた。 以上によって、日本語学(特に「役割語」)の視点から「写生」・写生文を見直すための基礎知識・基盤が整いつつあると考える。また、子規を生んだ松山で、写生文の研究会を立ち上げたことは意義深いと考える。 初年度であり、論文の成果はまとめられなかったが、愛媛大学と松山市長との交流会の特別講演として、「幻の松山方言-『坂の上の雲』の松山ことばから-」と題して、小説中の方言の役割語としての機能について司馬遼太郎の『坂の上の雲』と司馬が資料とした高浜虚子の文章を取り上げて私見を述べた。
|