本研究は、翻訳家が脳内で行っている翻訳プロセスをブラックボックスとして見立てて、言語学で得られてきた諸洞察を応用しつつ、翻訳に関わる規則・その適用条件・適用順序、及び脳内知識データベースからの知識の抽出をアルゴリズムとして明示化し、それを認知科学的にモデル化することによって、そのブラックボックスの内容を明らかにしようとする研究である。 平成22年度は、たたき台としての暫定的な翻訳システムのモデルを構築し、具体的な適用例の一つとして英語の分詞構文と関係節構文に関する翻訳手順の明示化を行った。上述のように、翻訳モデルには、英語文法と日本語文法という、言語学での(手順化された)文法モデルが含まれているが、それに加えて、文脈談話知識の表示体系と一般知識の表示体系も必要になる。さらに、得られた翻訳文が読み易いかどうかを決める評価手順も作り出す必要がある。そのようなモデル構築においては、従来の言語学的研究の調査に加えて、翻訳に関する様々な文献の調査と、自然言語処理研究での動向や成果の調査などが必要になる。本年度では、上述のような言語モデルの一部としてJackendoff(2006)などで展開されている言語モデルを採用し、全体的な暫定モデルの構築を行い、それにかかわる基礎的調査を行った。そして、そのモデルから得られる派生的な応用例のひとつとして、英語の関係節構文が含まれている文の意味解釈、並びに翻訳を取りあげ、正確で読みやすい解釈文を作成するために必要とされるおおよその手順を述べ、それに基づいた教育的概説を執筆した。
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