縄文中期~後期の破片接合状況の良好な土器について、土器の破片化パターンを検討するべく、展開図の様に器面全体を写真撮影し、<割れ線>データを収集した。埋設土器、遺棄・安置土器、破壊土器、廃棄土器を対象とし、栃木県・東京都・富山県に所在する台地や低湿地の遺跡出土資料を、400点以上検討した。 およその傾向は以下の通り。完形の埋設土器は、正位の場合、深鉢では、土器内に土が詰まり、破片は大型で、<割れ線>は縦位ないし急斜位が基調だが、<割れ幹線>(=分断されずに続く割れ線)としては底部に到達しない。土器の下半を割って上半のみを用いる埋甕炉では、割れ線自体が少なく、縦位に限られる。正位の浅鉢では、幹線は横走する。横位埋設の場合、土器内に土が詰まらず、破片は小型化し、割れ線は縦横に走って多数の線分の集合となり幹線は縦位に1本走る程度である。遺棄・安置土器の完形個体は横位出土が大半で、土器内に土が詰まり、破片は小型化が進まず、割れ線は縦位に長目に走る。以上は、自然状態での破片化パターンと想定できる。破壊土器は、完存事例は無く、破片は横位埋設土器よりやや大き目で、割れ線には幹線が殆ど無く、割れの起点を確認できない。廃棄土器は、多数の線分の集合となるが、長目の割れ線に囲まれた破片集合体から成る<破損単位>を認め得ることもある。これらは、人為による破片化パターンの類型化作業の素地となった。 未報告の出土状況記録が予想以上に豊富な事を資料調査先で知り、それと<割れ線>との更なる照合の必要性が生じたが、現時点の理解では、埋設土器や安置・遺棄土器の破損原因は土圧が圧倒的で、廃棄土器や破壊土器の破損原因には強い加撃による衝撃破壊を見出せない。以上、当該年度では、土器の動作連鎖の最終局面での人間の行為・意識の推測に供する基礎的かつ実証的作業として、破損化パターンを検討し破損原因を推測した。
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