明治19(1886)年内務省衛生局編纂の『日本鉱泉誌』(全3巻)を参照し、開湯または発見の記録が古い温泉をピックアップし、そのリストを作成した。 このリストおよびその他の情報をもとにして、平成21年度は山形県蔵王温泉・小野川温泉、山梨県塩山温泉・岩間温泉、群馬県水上温泉・上牧温泉・四万温泉・沢渡温泉、栃木県那須塩原温泉・馬頭温泉等の踏査を実施した。 踏査の結果、山形県小野川温泉(含硫化水素ナトリウム・カルシイムー塩化物泉)と小野川a遺跡(縄文早~中)・同c遺跡(縄文前・後)・塔ノ原遺跡(縄文前・中)、群馬県上牧温泉(ナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物泉)と矢瀬遺跡(縄文後・晩期)、同県沢渡温泉(アルカリ性カルシウム・ナトリウムー硫酸塩・塩化物泉)と久森遺跡(縄文中期)との間に有機的な相関関係が存在する可能性が高いことを確認した。また、栃木県馬頭温泉(アルカリ性単純硫黄泉)は古代那須国の中心地に位置し、周辺には前期古墳・那須宮衙跡等の多数の遺跡や延喜式内社健武神社が存在するため、それらと有機的な相関関係が存在する可能性が考えられる。ただし、栃木県那須塩原温泉については、周知されている縄文遺跡が僅少であり、温泉源と遺跡との関係については、不明な点が多く、今後の課題となった。 なお、山形県蔵王温泉の泉質(含硫化水素強酸性明ばん緑ばん泉)はPH1.3~1.8という全国屈指の強酸性であり、温泉水が流れ込む酢川には魚が棲息しないため、漁労活動が不可能な川である。しかし、酢川温泉神は延喜式に記載されており、温泉の発見と利用には、当時当該地域で活躍した天台系山伏が関与した可能性が考えられ、山岳信仰という側面から温泉利用を考える必要が生じた。
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