本研究は北米と日本において開発が与える文化や生物多様性への影響評価を環境倫理・生命倫理と歴史から考察することで次世代にあるべき水域環境改善・回復策を展望することを目的としている。この目的を研究へ実行する際、以下3つの疑問を念頭に置いてきた。(1)なぜダム建設や河川管理に関して分裂した見識があるのか、(2)文化と生物多様性を保護、回復するために具体的にどのような先住民族の経験知が有効なのか、(3)将来の水域環境改善へのロードマップを作製する際、生命倫理や環境倫理の融合原理を活用できないだろうか。上記(1)と(2)に対応するため、21年度の研究活動では、データー収集のためアメリカ公文書館と議会図書館で第2次世界大戦後の大規模灌漑・ダム建設が先住民族に与えてきた影響に関するFBIやBureau of Reclamationからの情報や、議会での諮問委員会報告書等をデジタル複写し、解析した。また、水域に関する先住民族の伝統的な活動を包括的にとらえるための民族誌的(スミソニアン博物館報告書など)な資料を入手した。上記(3)の疑問にこたえるため、これまで文献資料からアプローチを試みるのと同時に、ウィルダネス学会へ参加し研究者との意見交換をした。参加地のメキシコでは、先住民族のマヤ民族が多く住んでおり、あわせてツアー参加からマヤ文明での水利用とそこからの教訓、メキシコの水利用問題とアメリカとの比較についても学んだ。こうした情報収集から、水域開発を考える1つの指針として「環境代理人制度」という考えを明確にして新たな水域環境研究に貢献することが可能ではないかと確信した。これについては現在詳細をつめている段階であり、近々に成果を発表するようにしたい。また、成果として2009年度には先住民族と水域環境の研究をキーワードとする単著1冊と論文を1つだした。
|