デンマークは福祉国家として知られる北欧諸国の一つとして日本でも人気が高いが、世界の諸地域で見られる中華街については存在しないといわれる。暮らしやすさの点で、中国人にとっても人気の高いことが予想されるにも関わらず、なぜ中華街は存在しないのか、この点を明らかにすることが本研究の目的である。 平成21年度については、当初は文献資料の分析をベースに第1次となる現地調査を行う予定であったが、研究分担者の事情により海外調査は実施できなかった。そこで、成果は国内での関連資料の検討・考察にとどまった。文献の考察を進める中で、デンマークの場合には、中国系か否かに関わらず、「移民」「移民政策」という観点からみた対移民言語教育や社会サービスがどのように社会への統合を促しうるのか、この点が本テーマを解き明かすのに重要なキーワードとなりうることが明確となった。 移民政策には、多文化を容認するタイプと可能な同化を促すタイプとがあると考えられるが、デンマークの場合は後者であるといえる。移民に対してはデンマーク語の教育を提供し、一定水準の言語能力を獲得させることで、デンマーク社会での就業・定住など、生活安定化を目指す。これはホスト社会側からみてもメリットがあると考えられる。(例えば、移民による犯罪を防ぐことが可能になる。)こうしたプロセスの中で、集住しなくてもよいシステム、つまり、中華街を作らなくてもよいシステム、というのが出来上がり、そこで、デンマークでは中華街が形成されずにある可能性がある。 しかし、中華街には言語面以外でも様々な互助機能があることから、平成22年度には現地調査を行い、中華街のもつさまざまな側面を具体的にはどのようにカバーしているのかについて明らかにすることを目指す。
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