本年度の研究課題の中心は、アメリカの憲法研究者が判例の形成した審査基準論をどのように捉えているか、および、それと対抗する審査方法としての比例原則をどのように見ているかを明らかにすることにあった。審査基準論にしても、比例原則にしても、利益衡量論とどのような関係にあるかが、まず明らかにすべき基本問題であるが、アメリカではスカリア判事が判例の中で利益衡量の原理的不可能性を主張したことをから、比較不能性をめぐる論争が展開し、それと関連して、利益衡量に関するアドホックな利益衡量とカテゴリカルあるいは定義づけ的な利益衡量の区別の見直しが進展した。それがルールとスタンダードあるいは原理の区別という議論として捉え直され、この枠組みにより審査基準論を分析する思考が生み出されてきた。それによれば、厳格審査と合理性基準審査は、ルール的アプローチであり、中間審査はスタンダード的あるいはアドホック・バランシング的なアプローチであると説明される。この場合、比例原則の考え方はスタンダード的アプローチと位置づけられるようである。しかし、大陸法的な比例原則をアメリカの「高められた審査」と対比する学説も存在しており、アメリカの研究者が比例原則をどのように捉えるかについては、いまだ定説はない。私自身は、アメリカの審査基準論はドイツの狭義の比例原則と対比するのが的確であると考えるに至り、その観点から両者の違いを「基準に基づく利益衡量」と「裸の利益衡量」として捉え、その考え方を後掲の論文および図書の中で述べるとともに、弁護士会での講演で話す機会をもった(その記録「憲法判断の基準-その変遷と現状-」が「法と正義」60巻7号98~114頁に掲載されている)。
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