初年度の研究は、アメリカにおける審査基準論と比例原則の議論状況の研究を中心に行ったので、本年度は、それを大陸法的な思考から捉えるとどうなるかを中心に研究した。アメリカは審査基準論、ヨーロッパ大陸諸国は比例原則という審査方法図式になるが、興味深いことに、アメリカと同様のコモンロー国であるカナダの最高裁判所は、違憲審査方法として、アメリカと対抗するかのように、比例原則を採用している。また、コモンローの本国であるイギリスでも、違憲審査ではないが、人権法律に基づく人権訴訟の審査に比例原則を用いている。したがって、審査方法の違いを安易にコモンローとローマ法の伝統の違いに帰着させることはできないことが分かってきた。しかし、この点をどう理解するかはさらなる研究に留保するとして、二つの審査方法の違いを支える思考法の違いは、やはりコモンロー的思考法とローマ法的思考法の違いに由来するのではないかという当初の仮説が誤りではなかったというある程度の確信を得ることができた。要するに、審査基準論と比例原則という審査方法の違いは、裁判官にどの程度の法創造が認められるかと密接に関連しており、法創造として基準を定立しうるアメリカの裁判権と法適用として個別事件ごとの利益衡量を行う大陸法的な裁判権の違いとして理解しうるのではないかと考えるに至ったのである。 審査基準論と比例原則の違いは、日本の最高裁判例をどう理解するかとも深く関わっており、ロースクールのおける憲法教育においても重要な問題となってきている。本研究により、ある程度両者の違い明らかになり、架橋が可能になってきたのではないかと考えている。本年度の研究で得た知見は、私の憲法教科書『立憲主義と日本国憲法』の改訂に際して説明を付加することができたし、審査方法をめぐる特集を企画した法律時報(2011年5月号)において「『通常審査』の意味と構造」と題する論考でも取り入れている。
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