三年計画の本研究は、初年度にはアメリカにおける審査基準論を比例原則と比較しながら研究し、二年度にはコモンローの国であるカナダとイギリスでなぜアメリカと異なり比例原則が支配的となっているのかを研究することを通じて、審査基準論と比例原則の違いの研究を進めた。最後の三年度の課題は、大陸法における比例原則のほうからアメリカを眺めてみることにより、二つの違憲審査方法の違いとそれを基礎づけている法的思考方法の違いという問題に迫ってみることにあった。最初に、大陸法における比例原則のより正確な理解を深めるために、フランスがそれをどのように理解し適用しているのかの研究を行ったが、私の得た印象では、ドイツの影響下に憲法院の違憲審査の中で比例原則が部分的に導入されてはいるが、まだドイツにみられるほど審査における支配的な方法としては確立されておらず、試行錯誤の段階のようである。主たる理由は二つ考えられ、一つは、現在、学説がドイツ理論を精力的に研究し参照しつつあるが、まだ実務に浸透するには至っていないということ、二つは、フランスの憲法院はドイツの憲法裁判所とは性格も権限も違い、ドイツの比例原則をそのまま導入する基盤が存在してこなかったということ。しかし、後者の点については、フランスも憲法改正により具体的規範統制を可能とする制度を導入したので、ドイツと比較する共通基盤が拡大した。したがって、今後の判例の展開により、ドイツとフランスの異同がより明確となっていくのではないかという感触をえた。なお、比例原則と審査基準論の違いの理解は、こうした研究を通じて一層深まり、両者を統合する日本的な枠組みを形成しうるのではないかと考えるに至り、その点を論じた論文を近く法曹時報に発表の予定である。しかし、究極の課題として設定していた、コモンロー的思考とローマ法的思考の違いとどう関連しているのかについては、いまだ明確に捉えきるところまでに至っておらず、今後も研究を続けていきたいと考えている。
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