研究概要 |
本研究は、国際法理論と環境条約交渉のインターフェイスを分析することを通じて、形成途上にある条約制度がそれを基礎づけ枠づける(はずの)国際法の理論的支柱とどのように関連づけられて交渉されたのか(されなかったのか)を、動態的に解明することを目的とする。そのため、第1に、「責任と救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書」の交渉過程を政府代表団の一員として追い、一般国際法理論たる「責任liability」概念の役割につき検討を行った。第2に、有害廃棄物に関するバーゼル条約における「条約改正発効要件条項の解釈」に関する議論をNGOとして会議に出席して追い、条約解釈に関する国際法の一般理論の役割について検討を行った。 以上の2つの事例の検討を通じて、国際環境法の断片化現象の実態につき課題提起的な考察を行った。「責任と救済」制度については、関係専門家との共同研究の結果(Akiho SHIBATA ed.,The Nagoya-Kuala Lumpur Supplementary Protocol on Liability and Redress to the Cartagena Protocol on Biosafety(forthcoming,2012)、EU法で導入された責任に関する「行政的アプローチ」を国際版に「改訂」して、責任概念の転回を図ったことが明らかとなった。これは責任概念の断片化ではなく進化(evolution)と位置づけられる。他方で、バーゼル条約における発効要件条項の解釈は、結果的にコンセンサスで採択され、形式的には条約法条約第31条3項(a)の諸要件を満たしうるとは言え、現場の交渉状況を反映した政治的判断にて「合意」が成立したと言える。つまり、国際法理論との整合性よりも政治判断が優先された結果としての断片化の現れであると言える。
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