先行研究がわが国には十分に存在せず、わが国の図書館は関連文献を多くは所蔵していないため、平成21年度には、文献の収集を中心に行い、並行して、分析を進め、平成22年以降の現地調査を効率的に行うための予備的作業を行った。 まず、イスラム金融関連の英語文献、とりわけ、イスラムにおけるオプション取引をめぐる文献を中心に収集し、分析を開始した。この結果、イスラム法諸国においては、先物取引市場は比較的広く見受けられるものの、イスラム法学者の間で、オプション取引の是非については見解が分かれており、マレーシアを除くと活発とはいえないようである。したがって、平成22年度以降もマレーシアを調査対象国とすることが適当であると考えられた。しかも、マレーシアでは、国際デリバティブ及びスワップ協会(ISDA)と国際イスラム金融市場(IIFM)とが共同で策定したTahawwutマスターアグリーメントの調印式に多くの金融機関が参加し、そのマスターアグリーメントを用いて取引を開始する意向を表明している。このマスターアグリーメントの下で、個々のイスラム金融商品(ムラバハやワード)の契約がなされることが期待されている。すなわち、イスラム法(イスラム教)の基本原理と整合的にデリバティブを構築するためのさまざまな工夫がこのマスターアグリーメントには反映されている。このように、シャワアに従ったデリバティブ取引のための枠組みは整備されつつあり、個々の商品として、どのようなデリバティブが許容されるのかされないのかが今後の議論の中心となることが期待されている。
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